建設業の移動時間

  • 2022.09.15 公開
  • written by IKEDA

建設業を営む企業が技能実習生を受け入れたい場合に、監理団体と受け入れ企業の打合せに参加させてもらう事があります。
この時には必ず労働基準法の遵守は徹底してもらう様に話します。
建設業では、従業員が朝みんなで集合して一台の車に乗り合わせて現場に向かうというのが習慣になっている場合が大部分となっています。
そしてこれは、ほとんどの建設業者では労働時間に含まれていないと思われます。
この相乗りが労働時間に含まれるかどうかという問いに、まず感覚で「含まれない」と多くの日本人は答えるのではないかと思います。

はじめに

 建設業を営む企業が技能実習生を受け入れたい場合に、監理団体と受け入れ企業の打合せに参加させてもらう事があります。
この時には必ず労働基準法の遵守は徹底してもらう様に話します。
建設業では、従業員が朝みんなで集合して一台の車に乗り合わせて現場に向かうというのが習慣になっている場合が大部分となっています。 

そしてこれは、ほとんどの建設業者では労働時間に含まれていないと思われます。
この相乗りが労働時間に含まれるかどうかという問いに、まず感覚で「含まれない」と多くの日本人は答えるのではないかと思います。 

労働時間の管理を徹底してもらう以上、これが労働時間に含まれるならば、時間外労働が発生してしまう事になり、正確な帳簿を備付けなければならず、労働時間と賃金の管理は必須となるので正確な知識が必要となります。(帳簿とは「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の3つを指す) 

労働基準法を含む労働関係法は外国人にも日本人と同様に等しく適用されます。不法入国や不法滞在の在留資格を持たない外国人であっても同様です。 

労働時間の定義

 「労働時間」とは『使用者の指揮命令下に置かれている時間』を指します。 

この判断基準は
①就業規則や労働契約等の規定に左右せず客観的に判断
②使用者の明示or黙示の指示によって労働者が業務に従事していたと評価できるか判断 (平成12年3月9日の最高裁の判決より) 

現場への移動時間が労働時間になるかによって賃金の支払い義務が発生します。 

労働時間にあたるかどうかは明確な基準があるわけではなく、個別の判断となり、具体的に精査し判断する事になります。 

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」 

100年以上前のドイツの首相ビスマルクの名言です。 

判例では相乗りが通勤時間と判断された例、労働時間と判断された例があるので、この判例に基づいて我々はどの様に行動すべきかの独自で判断する必要があります。 労働時間と判断された判例(総設事件 東京地裁 平成20年2月22日)労働時間と判断されなかった判例(阿由葉工務店事件 東京地裁 平成14年11月15日)を踏まえて労働時間であるかどうかの判断材料とします。 

1.労働時間と判断されるケース 

①現場の作業を終えた後、車両で事務所へ戻ることを原則化している。
②出発前に資材の積み込みがある
③使用者や親方らによる班割りや業務の打ち合わせが行われている。
④出発前に作業内容の指示を待つ状態にある。
⑤車両による現場への移動も、使用者からの指示等に基づき親方と組になって赴いている。
⑥移動時間も打合せをしながら現場に向かう。
⑦就業時間が過ぎても他の現場に他の現場に行っていた労働者らが戻ってきていなければ道具の洗浄や資材の整理等を行っている。
⑧道具の洗浄や資材の整理等が会社から黙示による指示がなされた業務であったと考えられる。 

2.労働時間と判断されないケース 

①工事現場への直行直帰が認められている。
②移動に使う車両の運転者、集合時刻等を労働者らで任意に決めている(車両による事務所と現場の移動は会社の指示ではない。)
③車両の運転者や集合時刻等も従業員の間で任意に定めている。
④事務所と現場との往復は、通勤としての性格を多分に有している。 

上記の1.④の様に、実際に作業していなくても指示待ち状態であるならば、使用者によって時間が拘束されているため労働時間に該当し、1.⑧の様に「黙示の指示」であっても労働時間とみなされます。 

判例に従うとこのようになりますが、「個別の判断」なので様々な実態が考慮されます。 

陥りやすい労働法違反ですが、技能実習の認定取り消しに繋がり、在留資格まで失われる可能性もあります。
労働基準法違反が技能実習法違反と入管法違反もセットとなります。
即業務停止というわけではないですが、監理団体の運営にも支障が生じる恐れは十分にあります。 

受入れ企業と監理団体は二人三脚で受け入れ事業を進める事になりますが、行政書士等士業と三位一体となって技能実習生の受け入れを進めていかなければなりません。 

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